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不動産業界の間取り表記は「ここが変だよ」が溢れている
暑い日が続きますね…。2021年6月9日、近畿では30°超の真夏日となったエリアも多かったでしょう。5月16日には近畿地方の梅雨入りが発表され、平年より21日早く、昨年より25日早い、1951年の統計開始以来最も早いとのことでしたが。なんだか「変」な気候ですね。
さて、不動産業界にも「変だよ」と思うところもあります。特に不動産業界用語が分かりにくい…との声をしばしば耳にします。「井口克美の“住まいるup”」、第7回目は【ここが変だよ不動産業界】㎡・坪・帖・畳⁉ 間取り表記編をお届けします。不動産業界に限らず、その業界にとっては当たり前のことでも、他の業界や一般の人からは「?」となることもあるでしょう。もちろん不動産業界にも業界関係者以外の人にとっては「?」となる表現や慣習が溢れています。この業界、かなり多い感じがしますが…。
まずは「マンション」というネーミングから。日本における鉄筋コンクリート造りの集合住宅の歴史は約50~60年ほどで、比較的新しい住居形態と言えます。日本の住まいは基本的に木造の戸建住宅であり、いわゆる「マンション」と呼ばれるものが欧米の住宅を参考にして誕生したことは説明するまでもないでしょう。
日本における「マンション」表記の意味として、欧米のものをそのまま使っていると思っている人も多いかと思われますが、全く違います。
本来の「マンション」は集合住宅のことではありませんし、そもそも「2LDK」や「3LDK」という表記や概念は外国にはありません。欧米の人に「mansionに住んでいる」と言えば、羨望の眼差しで見られることでしょう。なぜなら、「マンション」は主に「豪邸」という意味合いが強く、集合住宅は英語ではアパートメント(apartment)が一般的だからです。
このように、日本におけるマンションは、日本の昔からの住文化と新しく入ってきた住文化とを融合させた、日本固有のハイブリッド住宅と言えます。昭和30年代に銘打たれた「マンション」を筆頭に、不動産業界では不思議な表記がいたるところで見受けられます。
私も30年以上、不動産業界に携わっていますが、「ここが変だよ不動産業界」と思うところを紹介します。vol.7は「間取り編」です。
日本の不動産業を一変させた「LDK」表記の出現
間取り表記の「LDK」も日本特有のネーミングで、外国の人から見ると「?」となります。服部岑生 「間取り」の世界地図 暮らしの知恵としきたり(青春新書インテリジェンス)によると、LDK表記の起源は1951年、実に昭和26年にまで遡るとのことです。
当時は1950年6月から始まった朝鮮戦争に伴い、在朝鮮アメリカ軍、在日アメリカ軍から日本に物資の発注が相次ぐ「朝鮮特需」により、日本は目覚しい復興が始まりましたが、日本国内では420万戸の住宅が不足-。住宅不足解消のため、小規模住宅を大量に生産することが緊急の課題という時代背景でした。
当時の建設省(現在は国土交通省に再編)が、新たな時代にふさわしい公営住宅を建設するため、当時の東京大学の吉武泰水助教授と大学院生の鈴木成文氏が設計したプランが採用されました。
その設計プランは「寝室は2部屋以上」「食事ができる広さの台所をつくる」など、今では当たり前の「食寝分離」のライフスタイルを提案するものでした。
台所(Kitchen=キッチン)に食事ができる空間(Dining=ダイニング)をつくったことからDKという概念が生まれ、この2つの部屋とDKを組み合わせた間取りということで内部資料には「2DK」と記されていたそうです。
それまで同じ和室で食事の時にはちゃぶ台を、寝る時には布団を敷く生活様式だったこともあり、当時の販売現場にはテーブルセットやベッドなどが配置され、「こちらの椅子に座りテーブルで食事を」「寝る時はこちらの部屋で」と説明することもあったようです。
集合住宅や宅地の大規模供給等を目的とした日本住宅公団による団地などでそのままDK表記が使われていたようですが、1965(昭和40)年頃から、民間業者がマンション販売時にも使うようになり、一気に広がりました。
居間(Living=リビング)含め、1970年代には「LDK」はまたたく間に認知されるようになり、日本独自の表現として定着した経緯があります。このように、「部屋数+LDK」という間取り表現は、イメージしやすく、他物件との比較がスムーズになったこともあり定着しました。日本の不動産業界を一変させた画期的なものでした。
※日本住宅公団…1955(昭和30)年7月25日設立の特殊法人。住宅に困窮する勤労者のために住宅及び宅地の供給をおこなってきたが、1981年10月1日住宅・都市整備公団法により解散。
お客様も困惑しきりの広さ表記「㎡・坪・㎡・帖・畳」?
間取りの「ここが変だよ不動産業界」はまだまだあります。広さ表記を見ておかしいと感じることはないでしょうか? 例えば、間取りの広さを表記する時には75㎡というように「㎡」が使われます。しかし、23坪というように、昔ながらの尺貫法による広さの単位、「坪(1坪≒3.3㎡)」で表記する場合もあります。
更に間取りの中では洋室6帖というように、「㎡」でも「坪」でもなく、「帖数表示」になっています。不動産業界やインテリアはじめ住宅関連業界以外で「1帖を何㎡か」すぐに応えられる人はいるでしょうか? オマケに畳の部屋の広さは6畳と、畳(じょう)という単位で表現されます。
帖はもともと畳からきているので、基本広さは同じです(1帖=1畳=1.62㎡)。しかし、1畳は地域などで広さが異なり、同じ6畳でも、関西(京間)、中部(中京間)、東京(江戸間)、団地間では、面積が違います。
間取りのサイズに関しては「浴室のサイズも変だよ」と言わざるを得ません。1317(1.3m×1.7m)のように、縦と横の長さの掛け算表記となっているからです。不動産業界に長くいるから慣れてしまっていますが、冷静に考えてみると、これだけ表現の違う広さの単位が混在するのはおかしくないだろうか?
誰も文句を言わないのが不思議でならないし、もしかしたら同様の意見がこれまであっても変わらなかったのか。肝心のお客様が最も困惑していることでしょう…。
日本語なのか英語なのか…イメージ優先でお手上げ
「ここが変だよ」と言えば、間取りにある各スペースの表記は、日本語と英語の表記も混在していることもおかしい…ですね。これは、住まいに限らず日本における製品全てに言えることですが、「なんとなく、横文字にすることで外国の生活様式っぽくなり、イメージがいい」ということなのでしょう。
高級マンションになると、間取りの全ての表記が英語になっているものもあります。中には、フリールームやDEN(納戸)のようにカタカナや英語に言い換えることでイメージアップを図ろうとするケースもあります。
「DEN」は初めて見た人には「?」しか浮かばないのではないかと心配するレベルです。英語で巣穴やねぐらを意味するそうですが…。
また、日本における「洋室」という言葉もそろそろ変えたほうが良いのではないかと思います。畳の部屋の「和室」に対する表現として「洋室」という言葉を使ったのでしょう。しかし、最近のマンションの間取りには「和室」がないものも多くなってきており、「洋室」という言葉が浮いてしまっています。そもそも「洋室」とはどういう意味なのでしょうか?
時代は令和、新しいネーミングに変えるタイミングではないでしょうか。このように、間取りの表記は本当に「ここが変だよ不動産業界」と思うことばかりです。
本記事のまとめ
前述したように「マンション」は新しい生活スタイルの象徴でしたが、日本独自に進化をした日本固有のハイブリッド住宅と言えます。外国の人からすると、理解できない「ここが変だよ」の表現はたくさんあるでしょう。
急激な西洋化と日本特有の文化の融合により、落ち着くところに落ち着いたということでしょうか。
余談ではありますが、玄関扉が外開きになっているのも日本独特の仕様です。海外では、玄関扉は内側に開くため、ノックがあれば「come in」といって招き入れられるように内開きになっています。
なぜ日本の玄関扉は外開きなのか? もともと日本では扉といえば引き戸でしたが、「ドア」というものに変わった時にどういうことが考えられたのでしょうか。
日本の生活様式、文化、気候-。いくつか理由はありますので、ぜひ皆さんにも一緒に考えてみて欲しいですね。あらためてマンションは日本らしい住まいだと理解できることでしょう。
※玄関扉の外開きの理由は、別の機会にお届けします。
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【ここが変だよ不動産業界】は、今回の間取り編もそうですが、人生で最も高額と言われる「住宅」を購入する機会は少ないでしょうし、「まぁ、そんなもんなのかな」と受け入れる日本人の寛容性も関係しているでしょう。国によっては「訳が分からん。統一してくれ!」との声が挙がるでしょうから。
「どの業界にも理解に苦しむ慣習があるもんだ…」と不動産業界あるあるを面白おかしく共感していただけたら幸いです。
井口克美の”住まいるup”
オウンドメディア「crel@b(クリラボ)」の住宅評論家コラム。「関西の不動産業界のことならお任せ」の住宅評論家・井口克美氏が、「新築マンション事情」「戸建て事情」「首都圏と近畿圏の違い」「業界あるある」など、様々な角度から真面目に、時には面白おかしく皆様の「住まい」と「スマイル」のアップをお届けします。一般社団法人住まいる総合研究所代表理事。